2011年01月22日

幸せの言の葉〈445〉

「おまんの言うとおり、わしはめでたい人間じゃった。みんなあが笑顔で暮らせる国を作るゆうがは、たやすいことではない・・・わしはそれを思い知ったがぜよ。どればあ立派に腹を切っても、死んでしもうては何もならんがじゃき。」(坂本龍馬・「龍馬伝」より)


昨年のNHK大河ドラマ「龍馬伝」第34話(小説版では第33話)における、龍馬さんの言の葉ながよ。


薩長同盟に向けての第一歩として、薩摩名義で長州のための軍艦と銃を買い付ける大仕事を無事成し遂げた、亀山社中の近藤長次郎さん。


けんど、そんな中で社中内でいさかいがおこり、長次郎さんはエゲレスに密航しょうと企て、それが奉行所の役人にバレて、亀山社中に嫌疑がかけられてしまうがよ。


社中の象徴である白袴を慈しむように丁寧に広げていく長次郎さん。


白袴を広げ終えたとき、長次郎さんの心にゃあもはや一点の陰りもなかったがやき。


知らせを受けた龍馬さんが社中に飛んで帰ったとき、既に長次郎さんは莚をかけられた亡骸になっちょったがよ。


震える手で長次郎さんの手紙を読む龍馬さん。


「わしの不始末で社中に迷惑をかけるわけにはいかん。わしは、腹を切るがです。けんど、切腹は侍にしか許されんこと。これでわしは、やっと本当の侍になれるがじゃき。わしは今、まっこと晴れ晴れとした気分ですき。」


微笑んじゅうように見える長次郎さんの顏に手を当て、龍馬さんは肩を震わしもって、懸命に語りかけるがやき。


龍馬「いかん・・・いかんぜよ、長次郎。これからやないかえ・・・これからがおまんの出番やったがじゃき。どういて死んでしもうた。一緒に日本を変えるち約束したろうが、長次郎!どういて・・・どういてじゃ、長次郎!」


その夜、龍馬さんは一人で引田屋の座敷を取り、芸妓はお元さんを指名するがよ。


ほんで手酌で酒を注ぎ、龍馬さんはこの言の葉をお元さんに語るがやき。


龍馬「おまんの言うとおり、わしはめでたい人間じゃった。みんなあが笑顔で暮らせる国を作るゆうがは、たやすいことではない・・・わしはそれを思い知ったがぜよ。どればあ立派に腹を切っても、死んでしもうては何もならんがじゃき。」


以前、日本を逃げ出したいっちゅうて涙を流しよったお元さんに、龍馬さんはみんなあが笑うて暮らせる国を作りたいっちゅうて、「おめでたいお方」やと言われたことがあったがよ。


龍馬さんはにがそうに酒をあおり、「さあ、踊ってくれや、お元。」っちゅうて言うがやき。


二人分の膳が並べられちゅうがを見たお元さんが言うがよ。


お元「もうひとりのお方は。」


龍馬「おまんと同じように、異国へ行きたいと夢見た男ぜよ。」


お元さんが踊り始めると、龍馬さんは懐から紙を出して、もうひとつの膳の前に置くがやき。


龍馬「約束どおり、今夜はおまんと二人で飲むぜよ、長次郎。」


龍馬さんの話しかけるその紙は、遠く異国を見つめるような眼差しをした、長次郎さんの写真やったがぜよ。


「龍馬伝Ⅲ」(作 福田靖 ノベライズ 青木邦子 NHK出版)より



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