「わしがまだ子どもじゃった時に、母上がくださったがじゃ。これはおまんのお守りじゃゆうての。以来わしは、これを肌身離さずつけちゅう。子どもの頃から、大人になって、今までずっとのぉ。これを見るたびに、わしは思うがじゃき。どんなときも希望(のぞみ)はある。希望がわしを支えてくれちゅうと。今、わしを支えてくれちゅうがはおまんじゃき。おりょうがわしの希望ながじゃ。」(坂本龍馬・「龍馬伝」より)
昨年のNHK大河ドラマ「龍馬伝」第37話(小説版では第36話)における、龍馬さんの言の葉ながよ。
寺田屋騒動で深手を負うた龍馬さんは、伏見の薩摩藩邸に担ぎ込まれ、何とか一命をとりとめるがやき。
何日も、龍馬さんを献身的に看護するおりょうさん。
快復した龍馬さんは、おりょうさんに手伝うてもらいもって、薩長同盟の盟約に朱墨で裏書きの証文を書き上げるがよ。
筆を置く龍馬さんを見て、おりょうさんは龍馬さんが手の届かん存在になっていく気がしてくるがやき。
おりょう「・・・どうぞ、薩摩でゆっくりと傷を癒しとくれやす。坂本さんは、もう私なんぞに心配されるようなお方やおへん。」
龍馬「おまんも一緒に来いや。」
おりょう「えッ。」
龍馬「ずっとわしのそばにおってくれ。」
おりょう「坂本さんは、今弱ったはるさかいそんなことを言わはるのどす。」
龍馬「このまま別れたら、わしらはもう一生会えんかもしれん。それでもえいがか。」
おりょう「そんなん、嫌や。うちも坂本さんと一緒にいたい。」
龍馬「わしらは夫婦になるがじゃ、おりょう。」
おりょう「・・・はい、坂本さん。」
龍馬「龍馬と呼んでくれや。」
おりょう「はい、龍馬さん。」
龍馬「ありがとう、おりょう!ありがとう・・・!」
こうして晴れて夫婦となった2人は京を脱出し、亀山社中のある長崎に到着するがよ。
けんど、龍馬さんは忙しゅう動き回りっぱなしで、おりょうさんはひとりぽつねんと残され、淋しい思いをするがやき。
ひとりにしてしもうたことを詫びて、龍馬さんはおりょうさんを抱きしめるがよ。
龍馬「そうじゃ。これを、おまんにやる。」
龍馬さんは首飾りをはずしたがやき。
そこにゃあ木札がついちょって、「希」っちゅう文字があるがよ。
龍馬「ここに書かれちゅうがは、希(のぞみ)ゆう字じゃ。」
おりょう「のぞみ・・・。」
ほんで、龍馬さんはこの言の葉を語るがやき。
龍馬「わしがまだ子どもじゃった時に、母上がくださったがじゃ。これはおまんのお守りじゃゆうての。以来わしは、これを肌身離さずつけちゅう。子どもの頃から、大人になって、今までずっとのぉ。これを見るたびに、わしは思うがじゃき。どんなときも希望(のぞみ)はある。希望がわしを支えてくれちゅうと。今、わしを支えてくれちゅうがはおまんじゃき。おりょうがわしの希望ながじゃ。」
龍馬さんが抱き寄せりゃあ、おりょうさんはしがみついて泣き、涙で龍馬さんの胸は温こう濡れたがぜよ。
「龍馬伝Ⅲ」(作 福田靖 ノベライズ 青木邦子 NHK出版)より