「だから武器を持つがです。政権を帝に返さねば、力ずくで滅ぼしてやると、徳川に迫るための武器ながじゃ。」(坂本龍馬・「龍馬伝」より)
昨年のNHK大河ドラマ「龍馬伝」第39話(小説版では第38話)における、龍馬さんの言の葉ながよ。
慶応2年(1866年)6月、龍馬さんらあ亀山社中がユニオン号で参戦したお陰もあり、ついに長州軍は幕府軍との戦に勝利することになるがやき。
幕府がたった一藩に敗れたっちゅう衝撃・・・この年の1月に薩長同盟が成立し、わずか半年ばあで徳川幕府の屋台骨は揺らいだがよ。
長州の桂小五郎あらため木戸貫治(のちの木戸孝允)さんは、勝利の余韻を噛みしめもって言うがやき。
木戸「百の議論より、一度の戦じゃ。」
龍馬「このまま幕府軍を蹴散らして、江戸まで攻め込みたい心持ちですろう。」
木戸「流れはぼくらにあるけえのぉ。」
龍馬「けんど、戦はもうこのぐらいにしておきましょう。長州に負けて、幕府の力はますます弱まりました。今こそ諸藩に声をかけて味方を増やすんです。」
けんど、木戸さんは感情をむき出しにして言うがぜよ。
木戸「何を言い出すんだ、坂本君。ぼくらが薩摩と手を組もうと思ったのは、君が薩摩名義で軍艦や武器を送ってくれたからじゃ。薩摩との盟約だって幕府との戦を想定してのもんじゃろうが。あの裏書きを書いたのは、君じゃぞ。その君が戦をするなとは、こんなおかしな話があるか。そもそも戦をせずにどうやって幕府を倒すというんだ。」
龍馬「幕府に政権を返上させるんです。」
木戸「何・・・！？」
龍馬「そもそも将軍とは、征夷大将軍。夷狄から国を守れと帝から賜った役目ですろう。つまり徳川家は帝から政(まつりごと)を任されているだけですき、それを自ら返上させれば、戦をせずに徳川を倒せるがです。」
木戸「・・・大政奉還論か。」
龍馬「たいせい、ほうかんろん？」
龍馬さんは、自らの考えが大政奉還論と呼ばれゆうことを、まだ知らざったがよ。
木戸さんはその文字を紙に書きつけるがやき。
木戸「国の、政を、返し奉る。」
「大政奉還」の4文字が書かれた紙を龍馬さんに示し、木戸さんはため息をつきもって語るがよ。
木戸「この考えを提案した者は、実は過去にもようけおるんじゃ。しかし、結果は諦めた。」
龍馬「どういて。」
木戸「いったん力を与えられた者が、その力を手放すわけがないからだ。徳川は、そんなお人好しではない。」
ここで龍馬さんが決然と語ったがが、今回の言の葉ながやき。
龍馬「だから武器を持つがです。政権を帝に返さねば、力ずくで滅ぼしてやると、徳川に迫るための武器ながじゃ。」
けんど木戸さんは、大政奉還らあて奇跡でも起こらん限り無理じゃと言うて、譲らんがよ。
龍馬「その奇跡を起こさねば、日本はのうなってしまうがです。」
大政奉還・・・龍馬さんは、ついに新しい日本を作るための手段を見つけたがやき。
けんど龍馬さんが去った一室で、木戸さんはつぶやくがよ。
木戸「坂本君は、引き際がわかっちょらんのぉ。」
龍馬さんがその鮮烈な生涯を終えるまで、あと1年に迫っちょったがぜよ。
「龍馬伝�検�(作 福田靖 ノベライズ 青木邦子 NHK出版)より
