「ストーリーとしての競争戦略」〜優れた戦略の条件〜 (楠木建 著 東洋経済新報社 2800円＋税 2010年5月6日発行)をご紹介しますぜよ。
何ちゅうたち著者は、一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授で、しかもこの書籍は総ページ数500ページにおよぶ本格経営書の大著やき、お薦め書籍ブログとしちゃあ初の2部制、本日が前編で明日が後編ながやき。
ワシもサスガに普通やったら読む気ものうなるき買わんがやけんど、ふと書店で手に取ってオビの紹介文を読んだら、思わず購入してしもうちょったがよ。
そのオビにゃあ、こう書かれちゅうがやき。
「ウィットに富んだ文章。前半に張った伏線が、後半に見事につながる構成。戦略ストーリーが主題と見せかけて、クライマックスで隠し玉をポンと出す意外性。そして内容の裏にある圧倒的な取材と勉強量。抜群のリーダビリティに脱帽の名著だ。著者は学界の東野圭吾と呼んでもいいかもしれない。」(東京工芸大学准教授 大島武 氏 「プレジデント」2010年7月5日号より)
こりゃあまっこと、見事な推薦文ながよ！
一般に500ページもあるような本格経営書らあて、難しい文章や数式らあの羅列で、気合いを入れて読みはじめたち、結局読み終えれいで途中で挫折してしまうがが常ながやき。
そんな読者の心理を見抜いてか、この推薦文はそんな不安感を見事に払拭してくれちゅうがよ。
まあ考えてみりゃあ、「戦略の神髄は、思わず人に話したくなるような面白いストーリーにある。」っちゅう持論の著者が、読者が途中で投げ出しとうなるような書籍を書いたら、そりゃイカンろうきのう。
実際、山のような事例の数々が紹介されちゅうがやけんど、どの事例もこぢゃんと面白うて目からウロコの内容で、しかもこぢゃんとビジネスの参考になるがよ。
実はワシゃあ、いま2回目を読みゆうがやけんど、読み終えて直ぐにもう1回読みとうなる本格経営書らあて、初めて出会うたがやき。
さて内容やけんど、簡単に言やあ以下の通りながよ。
戦略の本質を一言で言やあ「違いをつくって、つなげる」、これに尽きると著者は言うがやき。
この定義の前半部分は、競合他社との違いを意味しちゅうがよ。
競争の中で業界平均以上の長期利益を上げることができるとすりゃあ、そりゃあ競合他社との何らかの「違い」があるきながやき。
他社との違いがなけりゃあ、経済学の想定する「完全競争」となり、余剰利潤はゼロになってしまうがよ。
ほんじゃき違いをつくる。
これが戦略の第一の本質ながやき。
ほんで、「ストーリーとしての競争戦略」は、戦略のもう1つの本質、「つながり」のほうに軸足を置いちゅうがよ。
個別の違いをバラバラに打ち出すだけじゃあ、戦略にならんがやき。
さまざまな打ち手が因果論理でつながり、相互作用する中で長期利益が実現されるがよ。
ほんで、戦略全体の「動き」と「流れ」がさっぱりわからんような、戦略が「静止画」にとどまっちゅう事例は多いけんど、優れた戦略は「動画」になっちゅうと、著者は言うがやき。
優れた戦略たぁ、戦略を構成する要素がかみおうて、全体としてゴールに向こうて動いていくイメージが動画のように見えてくる。全体の動きと流れが生き生きと浮かび上がってくる。そんな「ストーリーがある」戦略やっちゅうがよ。
例えばある経営者が自社の戦略を語る際、「ちょっと、この話聞いてや！」っちゅうて語りはじめ、「こういうことをやりゃあ、こうなっていって、ほいたら、ホラこんな動きが出てくるきに、こんなことができるようになると思うがやけんど、どうぜよ！？」っちゅう感じで、前へ前へと流れるように話が進んでいくがが、優れた戦略やっちゅうがやき。
著者はまた、戦略を度々サッカーにたとえて表現するがやけんど、このたとえがまた秀逸ながやき。
ひとつひとつのビジネスの打ち手をサッカーのパスやと表現し、なんぼパス回しが上手やち、シュートしてゴールせにゃあ点は入らんっちゅうがよ。
ゴールたぁ何かっちゅうたら、「持続的な利益創出」っちゅうことながやき。
ゴールするにゃあ、「利益が創出される最終的な論理」、つまりシュートが必要ながよ。
WTP−C＝P
ほんで、これが最も根本的な利益(P)の定義、シュートの定義やっちゅうがやき。
ちなみに「WTP」たぁ、「Willingness To Pay」、すなわち「顧客が支払いたいと思う水準」を意味しちょって、「C」はもちろんコストながよ。
煎じ詰めりゃあ、利益は「WTPからそれにかかるコストを引いたもの」ながやき。
ほいたら、利益創出の最終的な理屈は、競合よりか顧客が価値を認める製品やサービスを提供できるか、あるいは競合よりか低いコストで提供できるかのいずれかながよ。
つまり、ゴール直前のシュートにゃあ、大別して「WTPシュート」もしくは「コストシュート」の2つがあるっちゅうことながよ。
さらに著者は、基本的にゃあ競争優位の最終的な中身はこのどっちかやけんど、もう1つ、「そもそも競争があるきに利益をあげにくいがやき、競争がなけりゃあそれに越したこたぁない」っちゅう第3のシュートがあるっちゅうがやき。
こりゃあサッカーでいやあ、相手に邪魔されんとPKをやるみたいなもんやき、ほぼ確実に点が入るがよ。
つまり、業界全体を相手にせんと、競争の土俵を自ら特定のセグメントや領域に狭う絞り、その範囲に限定して事業を行うことによって、事実上競争がないような状態をつくる、すなわちニッチに特化するっちゅうんが第3のシュートの中身ながよ。
著者はこういうことを、「シュートの軸足を決める」っちゅうて表現するがやき。
このシュートの軸足問題を自動車業界に当てはめて考えてみりゃあ、次の通りながよ。
まずコストに軸足を置いた「コストシュート」の代表選手は、トヨタ自動車ながやき。
トヨタの利益創出の最終論理は、「さまざまな無駄をなくしてコストを他社よりか低うすりゃあ、(たとえ競争価格で売ったとしたち)利益が出る」っちゅうもんながよ。
これがストーリー全体の最後のシュートの部分ながやき。
このシュートに向けて、トヨタはさまざまなパス(他社との違い)を繰り出すがよ。
カンバン方式に基づくJIT(ジャスト・イン・タイム)の部品調達、生産ラインでの「自働化」による問題解決、平準化生産・・・。
このような、今じゃあ有名になったトヨタの打ち手は、それまでのアメリカの自動車業界で支配的やった「フォードシステム」たぁことごとく違うちょったわけやけんど、それと同時に、そうした打ち手がすべて「無駄をなくしてコストを下げる」っちゅうシュートにつながっちゅうがやき。
今日「トヨタ生産方式」(TPS)として広う知られちゅうもんは、こうしたさまざまなパスがコストシュートに向こうてつながったストーリー全体のことを意味しちゅうがぜよ。
一方「WTPシュート」の企業としちゃあ、メルセデス・ベンツ、BMW、アウディっちゅう名前が挙がるがよ。
こうした企業はシュートの軸足をWTP(顧客が支払いたいと思う水準)に定め、それに向こうてさまざまなパスを繰り出し、つなげていきゆうがやき。
トヨタたぁ違うストーリーで、利益っちゅう得点をたたき出そうとしゆうがぜよ。
ほいたら「ニッチシュート」の自動車メーカーはどこながか。
ニッチを狙うて、無競争をつくり出す・・・これがどういうことかは、顧客の立場に立って考えてみりゃあわかりやすいと著者は言うがよ。
無競争たぁ、その顧客がアタマの中に他の選択肢を持ってないっちゅうことにほかならんがやき。
ほいたら、フェラーリやロールス・ロイスらあがこれに当てはまるやろう。
フェラーリを買うような人は、初めっからフェラーリしか考えてのうて、他の車は端から考えてないがよ。
ほいたら、フェラーリにとって一番大切なことは何ながか。
ニッチ企業が利益を獲得できる論理は無競争にしかないがやき。
無競争状態を維持することが戦略のカギになるがよ。
そのために何ができるかといやぁ、要するに「売れるばあ売らん」っちゅうことながやき。
売れそうになったち、我慢して売らん。積極的に注文を断る。絶対に成長をめざさん。
これができて初めて「ニッチシュート」が成り立つがよ。
フェラーリは年間わずか数千台を製造して販売しゆうがやき。
「年間に数千台の需要しかないマーケットに、わざわざワシらあが高いオーバーヘッドを抱えてまで参入する意味はないがよ。放置しちょいちゃらぁよ。」っちゅう合理的な判断が他社の側にあるきにこそ、フェラーリは無競争を維持できるがよ。
フェラーリにゃあ、需要よりか1台少ない数をつくるっちゅう絶対の社訓があるがやと。
ほんで著者は、ストーリーを構想する第一歩としてシュートの軸足を定めにゃあならんがは、��WTP、�▲灰好函↓�ニッチ特化による無競争、の3つのシュートの間にトレードオフ関係があるからやっちゅうがやき。
WTPシュートにつながるパスとコスト低下につながるパスとの間にゃあ、あちらを立てりゃあこちらが立たぬの関係があるがが普通やっちゅうことながよ。
�，�よび�△鉢�のシュートの間にもトレードオフがあるがやき。
ストーリーの最後にくるシュートは、あくまでも「なんで儲かるがか」っちゅう論理にこだわるもんやないとイカンと著者は言うがよ。
WTPシュートの企業にとったち、もちろんコストが低いこたぁ大切ながやき。
コストシュートの会社やったち、WTPを無視してえいわけやないがよ。
ポルシェは極端にWTPで、インドのタタ・モーターズはあからさまにコストに軸足を置いちゅうがやき。
ポルシェと比べりゃあ、BMWはWTPっちゅうたちややコスト寄りやし、トヨタはタタと比べりゃあWTPを重視しちゅうと言えるがよ。
ほんで著者は、比較の問題としちゃあ、このようにWTPとコストのバランスをとっていくっちゅうシュートもありえるっちゅうがやき。
何らかのバランスを意図する企業のほうがむしろ普通やろうとも言うがよ。
トヨタのシュートはややコスト寄りのところで、結果的にコストとWTPとの程よいバランスをとっちゅうといえるっちゅうがやき。
その上で著者は、シュートの「軸足を定める」っちゅうんは、この二つがバッティングしたときにどっちをとるかをハッキリさせちょくことやっちゅうがぜよ。
ちなみにトヨタにしたち、WTPをシュートにするブランドとしてレクサスを立ち上げたときにゃあ、シュートの軸足がぶれんように、わざわざ従来のトヨタと違うたストーリーを別立てで用意するっちゅう大変な投資をしちゅうらしいがやき。
ここまでの「シュートの軸足を決める」っちゅう話は、著者の言う「戦略ストーリーの5C」の1つ、「競争優位」(Competitive Advantage)ながよ。
これは、ストーリーの起承転結の「結」の部分、利益が創出される最終的な論理で、サッカーでいやあシュートながやき。
ほんで著者が繰り返し強調するがは、戦略ストーリーは終わりから組み立てていくべきもん、起承転結の「結」をまずはっきりとイメージすることが先決やっちゅうがぜよ。
・・・さて、こぢゃんと長うなってしもうたけんど実はまだ半分、この続きはまた明日のブログをご覧くださいや。
ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件 (Hitotsubashi Business Review Books)
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