「中岡、わしが作りたい世の中は、上士も下士もない、平らな世の中ぜよ。誰かが誰かを支配する仕組みからは、必ず恨みや憎しみが生まれる。わしは母上から教えてもろうたがじゃき。憎しみからはなんちゃあ生まれん、と。わしは、この八つの策を成し遂げることで、みんなが笑うて暮らせる日本にしたいがじゃ。そのためには、戦で幕府を倒してはいかんがぜよ。中岡！」(坂本龍馬・「龍馬伝」より)
昨年のNHK大河ドラマ「龍馬伝」第43話(小説版では第42話)における、龍馬さんの言の葉ながよ。
土佐藩船夕顔丸に乗って京に向かう途上、龍馬さんは土佐藩参政・後藤象二郎さんに、ある文章を示すがやき。
龍馬「読んでみてつかあさい。日本の将来の道筋を考えてみたがです。」
その文章を読んで象二郎さんは、龍馬さんへの感嘆と嫉妬の感情がせめぎ合うたがよ。
象二郎「・・・おんしが一人で考えたがか。」
龍馬「いやいや。今までいろんな人から教えてもろうたことを、自分なりに書いただけですき。後藤様が納得してもらえるやったら、大殿様にも見ていただきとうございます。」
象二郎「もっと綺麗な字で書き直さんと、大殿様には見せられん。」
龍馬「ありがとうございます。」
龍馬さんが示したその文章は、のちに「船中八策」と呼ばれるもんで、そこにゃあ日本の未来の姿が刻まれちょったがやき。
慶応3年6月、龍馬さんと中岡慎太郎さんの仲介で、土佐藩と薩摩藩の重役が顔を合わせ、薩土盟約が結ばれるがよ。
ほんで、京での海援隊の本陣となる「酢屋」で、龍馬さんは慎太郎さんに「船中八策」を語るがやき。
龍馬「こっちに向かう船の中で、新しい政の形を考えてみたがじゃき。」
慎太郎「新しい・・・！？」
「一、天下の政権を朝廷に奉還し、政令宜しく朝廷より出べし」
龍馬「まずは政権を帝に返上させるがじゃき。これは木戸さんから教えてもろうたことぜよ。」
「一、上下議政局を設け、議員を置いて万機を参讃し万機宜しく公論に決すべし」
龍馬「エゲレスのように二つの議院を作り、みんなあが話し合うて政を行うがじゃ。これは横井小楠先生から聞いたがじゃき。」
「一、有材の公卿、諸侯、及び天下有名の才を顧問に備え、官爵を給い、宜しく従来有名無実の官を廃すべし」
龍馬「身分が低うても、武市さんのような頭のえい者は身分を引き上げて政に加わるべきぜよ。吉田東洋様が言われたようにの。」
「一、外国との交際、宜しく広く公議を採り、新たに至当の規約を立つべし」
「一、古来の律令を折衷し、宜しく新たに無究の大典を選定すべし」
「一、海軍宜しく拡張すべし」
龍馬「これはもちろん勝麟太郎先生の教えぜよ。」
「一、親兵を置き、宜しく帝都を守衛すべし」
「一、金銀物価外国との平均の法をもうけ、宜しく富国の基をなすべし」
龍馬「これはの、長州の久坂玄瑞殿がわしに教えてくれたことぜよ。」
続けて龍馬さんは、この言の葉を語るがぜよ。
龍馬「中岡、わしが作りたい世の中は、上士も下士もない、平らな世の中ぜよ。誰かが誰かを支配する仕組みからは、必ず恨みや憎しみが生まれる。わしは母上から教えてもろうたがじゃき。憎しみからはなんちゃあ生まれん、と。わしは、この八つの策を成し遂げることで、みんなが笑うて暮らせる日本にしたいがじゃ。そのためには、戦で幕府を倒してはいかんがぜよ。中岡！」
慎太郎「おまん・・・ほんまに龍馬かえ。なんちゅうことをおまんは・・・わしは、わしは、涙が出てきたがじゃき！」
この話を聞きよった相撲部屋のちゃんこ番の少年藤吉も、号泣しもって語るがよ。
藤吉「あああ！わてもです。そんな国になってくれたら・・・わては学がないから、難しいことはわからないけど、日本がそんな国になってくれたらあ！」
龍馬「泣くことはないろう、藤吉。面白い男じゃのぉ、おまんは。」
慎太郎「しかし龍馬、これはいかん。これは、今ある仕組みをぶち壊すゆうことぜよ。今の仕組みにすがっちゅうもんは、決して認めんろう。」
龍馬「そうじゃろうのぉ。」
慎太郎「これを世に出したら、おまん、殺されるぜよ。」
龍馬「命を狙われるくらいのことをやらんと、日本は変わらんぜよ。」
龍馬さん暗殺まで、もう五か月を切っちょったがぜよ。
「龍馬伝�検�(作 福田靖 ノベライズ 青木邦子 NHK出版)より
