「日本国です。異国の侵略を許さん、堂々たる独立国です。」(坂本龍馬・「龍馬伝」より)
昨年のNHK大河ドラマ「龍馬伝」第46話(小説版では第45話)における、龍馬さんの言の葉ながよ。
慶応3年(1867年)9月、龍馬さんは土佐に戻んてきたがやき。
目指すは大政奉還、血を流さんと徳川を政権の座から引きずり下ろすこと。
そのためにゃあ土佐の大殿様、山内容堂公を動かさんといかんかったがよ。
土佐藩参政・後藤象二郎さんは、何度足蹴にされたち食い下がり、土佐のため、日本のために、決死の覚悟で自分を捨てて容堂公に頭を下げるがやき。
ほんでついに龍馬さんは、土佐の大殿様・山内容堂公に謁見を許されるがよ。
大政奉還の建白書を書いてほしいと願い出る龍馬さんに容堂公は、武市半平太さんや下士の仲間らあを殺したワシが憎うないかと訊ねるがやき。
龍馬「・・・憎いですき。下士が上士に虐げられる、この土佐のありさまが憎いがです。」
龍馬さんは表情を和らげて続けるがやき。
龍馬「私を産んでくれた母も、上士に殺されたようなもんです。けんど・・・母は、私に教えてくれました。憎しみからは何ちゃあ生まれんと。人を憎んでもどうにもならんがです。憎むべきは、二百六十年以上続いてきた、この国の古い仕組みじゃき。」
龍馬さんは立ち上がり、庭から外廊下へ上がり、容堂公の前に座ったがよ。
上士らあの手がいっせいに刀にかかったがを、「やめや！」と象二郎さんが一喝するがやき。
龍馬「大殿様。幕府も藩も、上士も下士も、もういらんがです。この国は生まれ変わらんといかん。それが大政奉還ながです！」
容堂「幕府をこの世からなくし、将軍もなくし、大名もなくすというがか。」
龍馬「はい。武士という身分ものうなりますろう。」
容堂「おんし、自分がどればあ恐ろしいことを言いゆうか、わかっちゅうがか。武士をなくしてしまえとは、許し難い考えである！」
龍馬「世の中が変わるとはどういうことか、突き詰めて考えたら、今私が言うたようなことになりますろう。賢明な大殿様なら、当然おわかりになるはずです。山内容堂公は、新しい世の魁となられるべきです。この国は、武士が力で治めるのではなく、志をもつ者が議論を尽くして治めていく国にせんといかんがじゃき。」
燃えるような思いを粛々と説いた龍馬さんは、脇差を前に置いて姿勢を正すがよ。
龍馬「私の意見は、戯れ言ですろうか。」
ゆるがん志をもって容堂公を見つめ、龍馬さんは懐から建白書の草案を取り出すがやき。
龍馬「ここに、この国の将来の形が書いちょります。大殿様のご決断をお待ちします。」
象二郎さんもまた脇差を手にし、膝の前に置くがよ。
象二郎「大殿様、ご決断を！」
容堂「・・・答えや、坂本。武士も大名ものうなった世の中に、何が残る。何が残るがじゃ。」
ここで龍馬さんが答えたがが、今回の言の葉ながやき。
龍馬「日本国です。異国の侵略を許さん、堂々たる独立国です。」
容堂「・・・刀をしまいや。」
その晩、容堂公は決意したがよ。
徳川将軍に、一藩の藩主が大政奉還を建白するゆうがは、とてつものう重いことやったがやき。
翌朝高知城に登城した龍馬さんは、象二郎さんについて容堂公の部屋に入ったがよ。
容堂公の書いた建白書を読み進むうちに、涙がにじんでくる龍馬さん。
龍馬「ありがとうございます、大殿様。これで、これで日本は救われるがです。大殿様のご英断に、心から、心から感謝いたします！」
深々と頭を下げる龍馬さん。
容堂「・・・答えや、坂本。おんしは、わしがこれを書くと信じちょったのぉ。どういてじゃ。」
龍馬「それは・・・大殿様が武市半平太の牢に来られたと聞いたからです。大殿様は、武市さんと同じ地べたに座られて、おまんはえい家来じゃと・・・武市さんは涙を流して喜んじょりました。」
改めて容堂公にひれ伏す龍馬さん。
龍馬「まっことありがとうございました！」
象二郎「ありがとうございました。」
慶応3年(1867年)10月3日、象二郎さんは容堂公から預かった建白書を懐に、二条城に入ったがやき。
ついに山内容堂公から徳川慶喜将軍に、大政奉還の建白書が提出されたがよ。
けんど龍馬さんに残された時は、もう40日しかなかったがぜよ。
「龍馬伝�検�(作 福田靖 ノベライズ 青木邦子 NHK出版)より
