2012年08月10日

杉浦日向子さんの言葉集「憩う言葉」ぜよ!

 今回は、元漫画家で江戸風俗研究家の故・杉浦日向子さんの言葉集「憩う言葉」(杉浦日向子 著 イースト・プレス 1000円+税 2011年5月20日発行)を、お薦め書籍としてご紹介さいていただきますぜよ。「憩う言葉」.jpg「憩う言葉」裏表紙.jpg


 ちなみに杉浦さんの著書としちゃあ、以前に「ごくらくちんみ」(新潮文庫)っちゅう掌編小説集をご紹介(「2006年9月1日」のブログ参照)したことがあったがよ。


 こりゃあ珍味と酒を入り口にした男と女の物語で、「青ムロくさや」や「たたみいわし」っちゅうように珍味名がタイトルになった掌編小説が、68編も収められちゅう文庫本ながやき。


 つまり68種類もの珍味と様々なお酒の組み合わせがストーリーの中でさりげのう使われちゅう稀有な68編の小説集で、珍味や酒の味わいの表現らあもまっこと見事で、感動したもんやったがよ。


 そんな杉浦さんの様々な著作から、「憩う」「呑む、食べる」「男と女」「しあわせな隠居」「杉浦日向子」っちゅう5つのテーマで、いろいろな言葉や漫画のカットらあを集めて作られたもんが、今回ご紹介する「憩う言葉」ながやき。


 ほいたらそんな中からワシがグッときた言葉の一部を、以下にご紹介さいていただきますぜよ。


【それなりのカタチ】
 必要もないに痩せたがったり、若造りするがに、金と時間を使うがは、不健康ながよ。その前に、十回銭湯に行きゃあえい。赤ちゃんもおばあちゃんも、きょう一日は一度きり。それぞれが、それなりのカタチで生きるがが、個性ながやき。(「杉浦日向子の食・道・楽」)


【千の夜を万に味わう】
 ひとときの合縁奇縁(あいえんきえん)を喜んで、千の夜を万に味わうが勝ち。(「入浴の女王」)


【ドンマイ、大丈夫】
 ほの暗い店内じゃあ、おとならあが、てんでに手酌で、つかのまのバカンスを紡ぎゆうがよ。年を重ねるがも悪うない。人生まんざら捨てたもんやない。ドンマイ、大丈夫。(「ソバ屋で憩う」)


【ていねいに、しっかり、充分に】
 明日もあるからやのうて、今日っちゅう一日を満々と満たすべく、だらだらやのうて、ていねいに、しっかり、充分に、呑む。(「杉浦日向子の食・道・楽」)【ていねいに、しっかり、充分に】.jpg



【うまい酒】
 なんでこれっぱあ酒が好きながやろう。酒が、ほんとうにうまいにゃあ、と思うたがは、三十を過ぎてからのこと。自分の意思で、店を選び、もちろん身銭で、手酌で、ひとり、たしなむようになってからのこと。(「杉浦日向子の食・道・楽」)


【たのしい酒】
 酒が、ほんとうにたのしいにゃあ、と思うたがは、四十代になってからのこと。呑みたい酒と場所を、TPOにあわいて、ぴたりと、使い分けできるようになってからのこと。(「杉浦日向子の食・道・楽」)


【うつくしい言葉】
 日本にゃあ、「いただきます」っちゅう、うつくしい言葉があるがよ。これに当てはまる言葉は、諸国に見当たらんらしいがやき。地上の生命(野菜、肉等)を、今戴いて、この身の存続ができます、ちゅう、「(御命)いただきます」こそ、率直敬虔な、基本の作法の一言やないろうか。(「杉浦日向子の食・道・楽」)


【食べるとは】
 四つ年下の義姉が、家庭菜園を始めて、二年になるがやき。えっさえっさの味がする。オイシイらあてもんやないがよ。生命の味、生味(せいみ)、ほんで、凄味ながやき。食べる、たぁ、ホンマに凄い行為ながよ。命から命をいただいて日々を永らえる事やったがよ。(「杉浦日向子の食・道・楽」)


【ピットイン】
 持ち駒は多けりゃあ多いばあ、町ぐらしのフットワークは軽やかになるがよ。ソバ屋は、すこぶる頼れるピットインになるがやき。(「ソバ屋で憩う」)


【ソバ湯】
 ソバ湯だけを合いの手に、酒を呑むがは、年を重ね、盃を重ねたもんの到達する、枯淡の境地やろう。ここまで来たら、いつ死んだち惜しゅうない命と悟るがえいと(個人的に)思うちゅう。(「ソバ屋で憩う」)


【色気】
 色気のない人生は、モノクロの世界ながよ。出会いと別れを重ねるにつれ、若いころ、接写やった視野が、だんだん広角になり、画素も増えて鮮明になり、隅々まで色や輪郭がはっきりしてくるがやき。(「うつくしく、やさしく、おろかなり」)


【仕事や家庭から一段降りる】
 仕事や家庭から一段降りて、最優先したいもんは何かを白紙から考える。それが私にとっての隠居の時間ながやき。(「読売新聞・1999年8月30日」)


【加齢は素敵だ】
 街暮らしの憩い不足を補うにゃあ、ソバ屋が効く。眉間から、目尻へ、皺(しわ)を刻もう。加齢は素敵ながよ。ソバ屋で上手に憩いゆう大先輩のお年寄りの姿を目にすりゃあ、しみじみそうおもえるがやき。(「ソバ屋で憩う」)


【江戸は日曜日】
 藤村が「夜明け前」を著したように、近世つまり江戸は暗黒の時代のように思われがちながよ。芳賀徹氏はこれに対し、近世が日曜日であり、近代=明治維新は月曜日の夜明けやとたとえちゅうがやき。私はこの言い方がこぢゃんと好きながよ。(「合葬」)


【人生最後の日】
 陽の当たる畳の部屋で、数冊の江戸戯作本(木版刷りの、凹凸もあらわな原本)を、寝転んで、ゆったりと読みよりたいがよ。更に欲を言やあ、それが、大好きな恋川春町の自画作の黄表紙でありゃあ、私にとっての最良の日となるやろう、ちゅうががさしあたっての答え(希望)ながやき。(「うつくしく、やさしく、おろかなり」)


 いかがやろう?皆さんも、こぢゃんと共感するような言葉が、あちこちに見つかったがやないろうか?


 「憩う言葉」・・・この書籍は、「はじめに」で杉浦さんのお兄さんが書かれちゅう通り、「飾りも美化もされんそのまんまの彼女が見える」言葉集ながやき。


 ワシもこぢゃんと共感する言葉を足るばあ発見して、日本酒好きやった杉浦さんとお酒を酌み交わすこたぁもはや叶わんきに、彼女の漫画やエッセイや小説らあをもういっぺん、まっこと読んでみとうなったがぜよ。


憩う言葉
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