「負の十を負の十とかけりゃあプラス百になるがよ。その百と、正の十を十倍した百は、おんなじ百やち意味が全く違うがやき。それがわからんかったら、詩歌はわからんやろう。プラス×プラスにゃあ、何の陰翳もないがぜよ。」(塚本邦雄)
歌人、詩人、評論家、小説家で、寺山修司、岡井隆とともに「前衛短歌の三雄」と称された、塚本邦雄さん(1920〜2005)の言の葉ながよ。
さて、そんな人間が現実に存在するかどうかはわからんけんど、もし生まれながらにして才能のカタマリで、家も裕福で、何の苦労ものう大成功をおさめた人がおったとしたら、そんな人の伝記らあて読みたい人はおらんろうし、そんな人の人生が心を打つこたぁないろうっちゅうことながやき。
けんど、何の才能ものうて、マイナスばっかしの人生で一生を終わった人の人生もまた、そんな人の伝記らあて読みたい人はおらんろうし、そんな人の人生が心を打つこたぁないがよ。
たとえマイナスだらけの人生やったとしたち、そのコンプレックスをコンプレックスのまんまで終わらせることのう、マイナスのコンプレックスをバネに変えて、マイナス×マイナスから巨大なプラスを生み出し、大成功をおさめたとしたら、そんな人の伝記やったら誰やち読んでみたいし、そんな人の人生は人の心を打つっちゅうことながやき。
結果がおんなじプラス百やったとしたち、プラス×プラスのプラス百と、マイナス×マイナスのプラス百とじゃあ、その人生の深みは全く違うっちゅうことながよ。
ほいたら、ワシらあもマイナスを嘆きよっちゃあいかんっちゅうことながやき。
どんなマイナスやち、全てが実は天からの恵みやっちゅうことながぜよ。